215 ローカルビジネスと建築(番外1)
JR中央ラインモール開業は2014年末頃のことのようだ.
当時の自分の中では, 公共建築(≒地域拠点の施設)の対極にあるのが商業建築であり, ここは商業建築として認識されていた. そもそも当時, 地域拠点施設という概念自体あまり無かったように記憶している.
JRを中心とした高架下活用+沿線開発のプロジェクトで, 複数の不動産会社が関与しているようだ.
改めて見ると, これも昨今の地域拠点ムーブメントに関連してそうに見えなくもない. それどころかこちらの方が時期としては早い.
ということで東小金井周辺を歩いてみた.
<ヒガコプレイス>
コンセプトは「地域で暮らし, 地域で営む」.
東小金井駅の高架下はnonowaというJRのショッピングモール, 駅から少し離れた高架下を民間他社に委託しているようだ.
駅から少し歩いた高架下に建物を描いたような白いフレームが見えてくる.
このフレームが店と歩道との間に中間領域を作っている.
特に武蔵境側は, 高架下の向かいが元々鉄道用地(貨物車庫と変電所)だったようで, 現在はまだ工事バリケードが続き何も無い状態だった.
5組の工芸職人が入居する atelier tempo.
骨組みむき出しの簡素なコンテナハウスの中に, ミシンや作業台が並んでいる.
コンテナが使われているのは, JRから民間への定期借地であることが原因のようだ.
高架のRC柱には, サインによる地域情報.
<PO-TO>
ヒガコプレイスの隣は, KO-TO → PO-TO → MA-TOと続く.
PO-TOは「店舗, 工房, ショールームを併設できるシェアオフィス」というコンセプト.
テナント部分はこじんまりしているが, 間口一杯のドアがショーウィンドウとなり, 道に面して小さな可愛い店が並ぶようなイメージ.
入居者の一人, HACOBEの渡辺さんはパッケージデザイナー.
自宅を本業の事務所にしているが, そのワークスタイルだと地域や社会との繋がりがどうも希薄になると感じ, オープンな工房兼アンテナショップとしてここに入居している.
東京オリンピック2020の種目を浮世絵の江戸人に見立てた「江戸×運動」シリーズ等, キャッチーかつ良心的な価格のグッズが並ぶ.
テナント入居者は別棟シェアスペースのキッチンや複合機等も利用可能.
分棟になったコンテナハウスなので, 一度外に出てからカードキーで入室する.
これは若干不思議な感覚だった.
<MA-TO>
PO-TOの先はこれからオープン予定のMA-TO.
PO-TOが工房的だったのに対し, MA-TOはキッチン機能が付加され, 飲食店を開ける造り. ヒガコプレイスのように, 歩道から高架下の内側にセットバックして中間領域を設けている.
奥の棟には, もう少し広めの業務用厨房や, 工作室, セミナー室が備えられている.
不動産業界の変化として見ると, これは画期的で先進的だ.
聞いた話だが, テナント入居者も運営会社側で厳しく審査し, 空室を埋めることよりもモール全体の雰囲気づくりを優先しているとのこと.
しかし一方, 題名で(番外1)としているのは, 建築そのもののあり方が210〜212で挙げた事例に比べるとやはりまだ商業的で不動産的要素が強いと感じたためだ.
理由としてはいくつか考えられる.
まず, コンテクストの不在. この場所はそもそもが中央線の高架化によって新たにできた場所のため, 前者のようにもともと商店街やマーケットで活気があったり, 多くの人が住んでいたりということがない. 住人についてはまさに今沿線周りに建売が急ピッチで整備されているように, 魅力を後付けしたあとに住む人を呼び込もうとしている側面がある.
そして, これが何より大きいと思うのだが, カスタマイズの不在だ. 事例211, 212は特に作り手(=使い手)のこだわりや個性, 元々そこにあったものへの尊重など, 手作りされた「一点モノ」感が非常に強いからこそ, いわゆる建築家作品ではないのだが建築としての魅力が感じられた.
が, ここでは定期借地(あとおそらくコスト)の制約もあり, 作り手が可能な範囲でデザインしたコンテナハウスを用意し, 使い手はその個々のテナント内のみをカスタマイズすることに止まってしまう. 結果として, この場所の魅力は使い手のコンテンツ(=商品)次第に寄ってくるように思う.
とにかく, 今このモールを見たからこそ多くの気づきがあった.