401 to 1960s TWA
近代という歴史をうまい具合に帯び, それを活用している.
帰国直後に立ち寄った旧TWA Terminal(現TWA Hotel)はまさにその好例.
喧騒のJFK Airport Terminal 5.
連絡エレベーターの文字盤には'1960s'と'Present Day(現在)'の2つのボタン.
'1960s'に着くと, やわらかな形状の長い通路が待ち受ける.
ここからすでにE.サーリネンの空間が始まっている.
通路を抜けると途端に広がる,RCシェルによる優美な空間.
建物というより白く柔らかい空気感に包み込まれるような感覚は, これが最近完成した最新の建築作品と言われても信じてしまうような新しさがあった. (実際ここが改修されてホテルとしてオープンしたのも最近なのだが, その意味での新しさではない.)
これが約60年前に実現した建築なのだから驚きだ.
表示盤がパラパラと回転するアナログなフライト案内板も当時のものなのだろう.
おそらく今はホテルのロビーとして使われているのであろう大空間には, 1960'sのアメリカンポップが流れていた.
内外を横断する構造体.
外の柱が屋根になり, 内部の天井になり, 2Fの床になり, 壁になり, たまに椅子にもなる.
伊東豊雄の台中オペラハウス等で起こっていることが, 既に60年前にここで行われ, 今も何の遜色もなく残っている.
構造とディテールが相互にこの空間を高め合っている.
よく見るとものすごく奇妙な形をしている階段の手すりも, この空間に身を置くとごくごく自然で心地よいものに感じられる.
このシェルに包まれた大空間の1Fと2Fを回遊することができるのも, この空間の心地良さにつながっていると思う.
そのブリッジは, 両側の曲面壁からせり出した方持ちの床が, ちょうど空間の中央, シェルの頂点から吊られた時計の真下で接して連結している.
外観も内観も宇宙船のように奇抜だ.
けれど, 実際の空間体験はこの上なく自然で心地良く, 違和感を感じなかった.
完成から60年経っても, 商業的なものに転用されても, その良さが損なわれていないのは,
既存を尊重した改修・運営方法もさることながら, 構造=空間であり空間=構造であるためだろう.
むしろ当時の喧騒からは切り離され, 今なら程よい静寂の中でこの空間を楽しむことができる.