219 創作の場としての廃墟
11-1 Studioの整備.
近隣には建築・木工系の町工場が多い.
彼らに分離発注して「技術のショールーム」的な場にするとともに,
自分自身でDIYもしながら仕上げていく.
そういう整備コンセプト.
その一環として, DIY用に, ある作業場を確保することができた.
11-1 Studioから歩いて3分.
近隣町工場の一つである材木店.
厳密にいうと, 昨年末に廃業した元材木店である.
ここに在庫として残る木材を一部買取りながら, 11-1 Studioのフローリングや家具としてDIYで使っていこうと思った.
木材を購入したら, 材木屋のおやっさんがこの場所で作業していいよと言ってくれた.
下小屋と呼ばれる, 気積の大きな半屋外の土間空間.
元々は, ここで材木を買い付けた大工が, 大きな材木を切断したり加工したりする場所.
波板屋根吹きさらしの非常に簡素な空間.
この場所で, 季節の匂いや風の音を聴きながら, ここ数日, 1人でゆっくりと木工作業をしている.
ある1日は春の嵐だった.
強い雨が波板屋根を叩き, 雷鳴が響いた.
けれどそれすらも, 作業のBGMとして心地良く感じた.
池袋という街の中にいる.
ただそれは, 少しだけ, 普通の日常を送る社会からは離れている.
喧騒から離れた, 静かな空間.
でもより強く街につながっている.
その空気の中で作業している.
ふと, 数年前RCR ArquitectesのアトリエEspacio Barberiで作業していた時の感覚を思い出した.
Espacio Barberiにも, 天高の高い, ほぼ屋外の廃墟空間があった.
もともとは, 鋳物工場のメインの作業スペースだったのだろう.
間仕切りのない大きな一室空間.
むき出しの木小屋組.
そのまま手付かずの土間.
窓が抜け落ちたままの開口部.
中庭に降りしきる雨は, この空間を雨音と湿気で満たした.
ここも, 隣接する中庭とともに, 街の喧騒から離れながら,
その街の, その自然の, 同じ空気の中で作業してると感じられる場所だった.
何にでも使える空間.
廃墟だから, いろんな実験が許される.
朝, 出勤してから1時間後くらいの休憩時間には, 皆でここでコーヒーを飲んだり.
作業に疲れて少しここの空気を吸いに来たり.
大規模なモックアップを作ったり.
空間体験として生々しく, 今も思い出せる.
その後日本の設計事務所で長く働いたけれど, こういう感覚は全く無かった.
建築家の設計事務所とは言え, 日本の事務所のつくりは「創作」というより「タスクをこなす」のに最適な空間のようだった.
RCRでは, 流れる1日の時間や空気を愛おしみながら, そこからインスピレーションを得て, まさに「創作する」感覚があった.
今もそう. いつ収束するか分からないコロナのため, 急ぐ必要が全くなくなった.
国産杉の材木と向き合いながら, 天候の変化や季節の変化を楽しみながら, 本当にゆっくりと作業を進めている. 疲れれば, このおおらかな「廃墟」を見上げながら休めばいい.
それは「作業」というより「創作」という感覚になる.
国土の狭い日本からは, こういう大きい割にお金を産まない空間は当然消えゆく運命にあると思うのだが, 少なくとも「創作」にはこうした場所が必要だと感じる.
11-1 Studioにも作業場ができるけれど, たぶんそれは狭い.
こうしたおおらかさのある創作の場をなんとか価値化できないか, 日々模索している.