221 Structure-atmosphere-ecosystem(2)
3.生産-消費 二極構造の脱却_Ecosystem
前回記事でも触れたが, Ecosystem=生態系 が今後のまちづくり・建築・ライフスタイルの鍵になると考えている.
建築・まちづくりの文脈での「生態系」という言葉は, これまでも表れてきた.
例えば平田晃久の有機的な形態に代表されるような, 地球環境の中における生物学的な意味合いにおいて.
しかしここでは, もう少し人間の社会構造として, 街での生活のあり方・産業のあり方として, この「生態系」という言葉を使いたいのである.
Ecoは環境(Ecology)の略であると同時に経済(Economy)の略でもある.
ここでいう「生態系」は, 地域の環境のこと, 経済のこと,そして循環のことである。
前時代が, 生産者→消費者間の二極的な循環だったのに対し, これからはすべての生活者が各々<生産者・消費者>の両側面を少しずつ併せ持ち, 生み出したい物事に対してチームの構成員を柔軟に少しずつ組み替えることで対応するような, そんな時代になるのではないだろうか.
一つ示唆的な図がある。
(かみいけ木賃文化ネットワークより)
上池袋の木賃を活用したアーティストインレジデンスである「かみいけ木賃文化ネットワーク」. 風呂は銭湯へ, 交流は公園へ, というように「足りないものはまちを使う」という発想の暮らし方を提唱している.
暮らし方の提唱であると同時に, 地域を豊かにしていく提唱でもある.
「生活」を中心としたエコシステムの好例といえよう.
実は, かつて自分もYGSA時代にこれと似たようなイラストを描いている.
たしか, 新しい時代の建築とは断片化された都市体験のネットワークを作り出すためのものなのではないか, という趣旨のイラストだった.
ただ改めて, 今思うのは, このネットワークに描かれているものは「消費する者としての生活者側」の視点だけであった.
つまり, お金を支出する側の視点のみしか考えられてなく, そのお金がどこからくるのか(その人自身が従来型の会社で働いたり居酒屋でバイトしたり?)までは考えていなかったのである.
なにせこれを描いたのが8年前の話. けれど8年経った今, 奇しくも社会システムが大きく変わる契機を迎えている.
4.「ローカリゼーション」の復興_Ecosystem
乱暴なまとめ方かもしれないが, 前時代とは「グローバリゼーション」の時代であった.
生産者→消費者の二極に分離していたのは, 生産者側が強固なグローバル・エコシステムを築いていたからである.
グローバル・エコシステムは, 生活の場とはまったく切り離され独立した生産活動を可能とした.
このエコシステムにおいては, 過程よりも, 最終的に水準を満たす商品{機能やサービス(価格)や外装}だけが求められた. 前述のパッケージ化は, まさにこの生産体制と相性が良かったのである.
オンラインが発展し, 連絡の距離感が無くなり, このグローバリゼーションはますます力を増すように見えた.
そんな中で起こったのが今回の世界的パンデミックによる分断である.
グローバリゼーションはまさに根底から揺るがされている.
他方で, これだけオンラインが普及しても, 特にイノベーションにおける場所性・ローカルの重要性は変わらないという説がある.
今もIT産業を牽引し続けているシリコンバレーにおいては, イノベーターが集まる大学や企業, イノベーターを支えるファウンダー, イノベーターたちの交流の場としてのカフェやバー, イノベーターの製作を支える専門特化型の町工場, これらが集積し, コミュニティを成していた.
これこそ, ここで述べたいEcosystem=生態系である.
単に「どう消費生活するか」ではない.
生活, 生産, 消費, 産業, そしてイノベーション. これらがどのように地域の中で絡み合って経済圏を作っていくか, そういうEcosystemを建築・都市として考える必要があると思う.
つづく