096 Venezia ヴェネト地方のスカルパ紀行⑩

自分が大学に入ったばかりの頃といえば、安藤忠雄の大きなプロジェクトが各地に竣工した時期だった。
そんな中で、ヴェネチアという歴史遺産的町の中心部にある税関建物の改修計画にこの日本人建築家が指名されたというのは、学生ながらに衝撃的で、とても興味のあるプロジェクトだった。
建築学科に入りたてにも関わらず、リノベーションとか改修とかに興味を持っていたのは、このプロジェクトを展覧会かなにかで見たときの感動が影響している気がする。


安藤忠雄が改修設計をしたPunta della Dogana。
それだけ前のプロジェクトだが、いろいろ難航したのか、完成はごく最近だったと思う。


 

税関だった建物の1,2階の床をほぼぶち抜き、そこに新たにスラブやコンクリート打ち放しの壁体など安藤建築言語の要素を加えている。
新たに付加された階段室は、RCのフラットな壁面と復元された煉瓦の壁面にはさまれて、独特の要素になっている。


しかし、である。
どこか学生時代の頃にワクワクしたあの感じとは違う。
一番大きいのは、現代美術館なのだが、展示作品が微妙なのだ。広い空間に対して密度も薄い。
いくつかの作品は大きな空間を生かして展示されてもいるのだが、その他大部分が?な作品で、空間とも合ってない。
この辺、直島の地中美術館とか豊島の豊島美術館と違う。
そのため、唐突感が漂い、安藤建築独特の緊張感がそがれてしまっている。
湾に突き出たすごい場所にも関わらず、それと呼応した空間・作品がない。


もう一つは、全部綺麗にされすぎてしまっているところか。
新しく追加されたRC壁などは綺麗で良いのだが、床面や、復元された煉瓦壁や木製の梁までもが新築同然に綺麗にされてしまっている。
そのため、そこがかつての税関だったなどの情報は消失して読み取れなかった。


このロケーション、歴史的埠頭を現代美術館に作り替えるというプログラム、そして安藤忠雄、この3つの条件が非常に面白いだけに、実際見て少し残念な印象だった。
これもスカルパの建築を見たあとだったからかもしれないが。


つづく