316 ユトレヒト/グラフィック(2)

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Utrecht, Netherland

 

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Ripoll, Spain

 

この2枚の写真.

下は, 以前自分が過ごしたスペインの街並み.

路地の両脇に崖のように家々がそびえ立ち, 時折歴史的な壁面が顔を出す.

グラウンドレベルは必ず店もしくは共同玄関と駐車場, 住居は2階以上にあるのが一般的.

アパート形式で, 上階も何部屋かに分節される.

2階以上のベランダから路地の賑わいを見下ろす,  買い物のために下に降りて路地を歩く, というのが当たり前の日常風景.

そしてそれは, その滞在中に訪れた近隣の国々でも同様の風景であった.

 

f:id:y-sag:20120414143600j:plain Olot, Spain

f:id:y-sag:20120430025749j:plain Lisbon, Portugar

f:id:y-sag:20160404122216j:plain Lyon, France

 

上の写真に戻る.

ユトレヒトに着いた途端, 街並みの路地に面した部分のこれまでとの決定的な違いに驚く.

まず一階部分の低さ, 大きな窓, そしてそこに人が生活していること.

次にその窓の低さ, ガラスの透明性.

 

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玄関ドアの横にすぐ, 大きな窓のある部屋.

路地を歩けば自然と中の様子が覗きこめてしまうくらいの窓.

そこは店舗のショーケースでもエントランスホールでもなく, 住民が生活している部屋つまり居間のような場所である.

 

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窓台には花が飾られたり, 猫がいたり.

そのすぐ奥で, 家族で夕食を食べていたり, ソファで新聞を読んでいたり, ミシンで編み物をしていたり.

他のヨーロッパの街並みで見たことのない風景があった.

 

→(3)

315 ユトレヒト/グラフィック(1)

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オランダの古都, ユトレヒト.

観光地化されすぎず, 素朴な風情, おそらく本来の「オランダらしさ」が残っている街.

ヨーロッパにあって非常に個性的な街で, この街を訪れたことは今回の旅の収穫であった.

 

Schroderhuis

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古い街並みの外れにあるシュレーダー邸.

外れと言っても, 中央美術館から徒歩でも行ける距離であった.

見学には事前にネットで要予約.

 

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色のついた線と面で構成される, 立体抽象絵画のような住宅.

赤・黄・青が目立つが、何階調かのグレートーンも重要な要素.

ユトレヒトといえばミッフィーの作者ディック・ブルーナの故郷としても有名だが,

リートフェルトブルーナとの親交があったとか.

デステイルとミッフィー, この接点は意外だったが, 知ってからミッフィーを見ると改めてこれは斬新なグラフィックデザインだったのだと気付かされる.

正円・正三角形・正方形の単純な幾何学と鮮やかな原色の色使いによる, 極限までシンプルだが伝わる強いグラフィック.

ミッフィーにあまり興味が無く, 旅程に入れていなかったことを少し後悔した.

 

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邸内部は写真撮影不可かつガイドツアーに従って進むため, あまり自分のペースでは見れず, 写真も無し. ガイドツアー自体の質は高かったが, 建築をとことん見て触れたい自分には若干消化不良.

 

2階リビングスペースの可動の室礼, リートフェルトデザインによる照明や家具も見ることができた.

建築家が家具・照明までデザインするのは稀なことではない.

だがリートフェルトの場合は, 建築や空間に合わせて家具・照明のデザインをしているというより, 一つの明確な考え方がまずあり, 建築も家具も照明もその延長上としてデザインされているという感覚がより強い. というよりそれが現れやすいデザインなのだろう.

例えば下の写真1F奥にかすかに見える, 3本の電燈菅(=線)をxyz方向それぞれに吊ったデザインの照明器具等, 家具から建築まで一貫している.

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ユトレヒトの街並にあって異質な存在.

けれど自分の記憶の中では, なぜかこの街の空気感と, その中でシュレーダー邸を見たという経験が, 同質に, 切り分けられることなく残っている.

シュレーダー邸というよりはユトレヒトという街が, そういう不思議な感覚を覚える街だった.

 

→(2)

 

 

206

Hatena DiaryからHatena Blogへ引越した.

そもそもは, 学生時代に建築を学びながら感じたことや, 実際に旅行で建築や街並みを見て感じたことを記録しようと思って始めたブログだった.

正直, 学生時代に書いたことなので今から見返すと稚拙な内容も多く, 一旦リセットすることも考えた.

けれど記録は記録として, そのまま引き継ぐことにした.

 

建築の実務に携わっているが, 良い意味で, 学生の時にしていたことのそのまま延長のようなことをしているように思う.

今は所属するアトリエにある意味守られた状態で仕事ができているが, いざ一人になった時に自分自身でどのような考えを持ってどのようなものを作るのか, それは常に持っていたい.

そういう考えのようなものを忘備録的にここにまとめても行きたいと思う.

引き続き, 旅行したときに見てきたものもまだ多く残っているので, それも整理していきたい.

 

〜199:学生時代・RCRインターンシップ時代

200〜:日本での実務・自分の考え 等

300〜:2度目のヨーロッパ旅行 等

 

自分は負けず嫌いである.

学生の時から数えてもう10年以上は建築に関わり続けているが, 正直言って嫌な出来事ばかりだったし負けばっかりだった.

負けたままでは終わらせられない. それが建築を続ける原動力というか呪縛というか, そんなものになっている.

 

 

314 Kroller Muller Museum 散策型美術館 (4)

Van Eyck Pavilion

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記号的な抽象絵画のような印象的な平面図.

学生時代にどこかの本で見て印象に残っていたが, 実在する建築とは思わなかった.

 

本館とは離れた, 彫刻作品が点在する森の散策路を抜けたところにそれはあった.

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 ファン・アイクとヘルツベルハー, オランダ構造主義の建築家, 平面・形態と人のアクティビティとの関係に着目した建築家.

学生時代に知って相当影響を受けたこともありつつ, 初めて見る実作.

リートフェルトのもの以上に気持ちが高ぶった.

 

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直線の壁, 円弧状の壁, 彫刻作品, 来訪者.

リートフェルトパヴィリオンと同様の, ほぼ内部が無い建築.

ただ前者がより彫刻的であるのに比べると, こちらはより建築的だと感じた.

 

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吹きさらしの場所に配置された <閉じる>ことのない平行な壁.

部分部分にリズミカルに挿入された壁の開口や円弧.

この単純なルールのみで, 吹きさらしの場所に留まる場やシークエンスなどを生み出している.

 

 

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開口から見える彫刻. その間に入るとまた別の彫刻が見え, そちらへと誘われる.

最後の彫刻が覗いている先は, パヴィリオンの外の森.

彫刻と呼応した空間.

スカルパのカノーヴァ美術館を思い出した.

 

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実物の実作を見るときの楽しみは, その素材感や納まり.

コンセプトである壁の形態・素材感を際立たせるためか, 屋根はシステマティックで軽い造り. しっくりくるデザイン.

 

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後日ネットで検索したところ, おそらく本人のものと思われる平面スケッチに行き着いた.

平面と形態とアクティビティと.  描かれている意図のままに自分がその空間を体験して行動させられていたことが後から分かった.

示唆に富む, とても好きな平面である.

 

 

313 Kroller Muller Museum 散策型美術館 (3)

Rietveld Pavilion

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美術館自体は作品含めて見応えのあるものだった.

しかし, Kroller Muller Museumで見るべきところはそこだけでは終わらなかった.

シュレーダー邸を設計したトーマス・リートフェルトのパヴィリオン, そして子供の家を設計したアルド・ファン・アイクのパヴィリオンが同庭園内に.

そのいずれもが, Insel Hombroichに匹敵するほど印象的だった.

 

まずは美術館脇にあったリートフェルトのパヴィリオン.

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ほぼ内部というものがない建築で、これ自体が展示されている彫刻と合わせて屋外彫刻作品のよう.

H鋼の柱・梁, ブロック積みの壁, ガラスなどの線・面材要素.

何かを囲うようにではなく, ユークリッド空間上に任意に配置されているところが, きわめてリートフェルト的.

特にこれは住宅のように制約のある機能を持たない純粋な建築のため, そのコンセプトがより明快に現れている.

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 空間を定義するパラメーターとしては内外の仕切りと空間の高さくらいしかないのだが, 抑揚のある空間に仕上がっている.

 

一方で意外だったのが, リートフェルトと素材感という接点.

それぞれの要素の接合部は, ただ上に積み重ねられているかのように極限まで単純なものになっている. ブロック積みはブロックとして, H鋼はH鋼として, 木梁は木材として, 天井材の藁は藁として.

不自然に欠損・穴あけ等することなく, 非常に即物的に見せることが意識されている.

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ブロックは壁を形成するだけでなく, 穴から光を通して半透明な光の壁のような効果をもたらすものとしても使用されている.  ただ透明なガラスも, よく見るとゆらぎ感のあるレトロなガラスが使用されている.

 

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リートフェルトの作品は, 要素と構成を際立たせるため, 基本原色により素材感を抽象化しているというのがこれまでの認識であった.

 しかしここでは, 柱・梁である鉄骨と木こそ白黒に塗装されているものの, それ以外のブロック・藁は素材感をむしろ活かした使われ方がされており、要素ではなく材料の構築として表現しようとする意図が見られる. しかもその使い方が非常に上手く, リートフェルトという建築家の別の面を見たように思った.

 

→(4)

312 Kroller Muller Museum 散策型美術館 (2)

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展示室がある本館.

古い建物ではあるが, 同じように随所に外の木立や庭園を意識的に垣間見せるつくり.

この展示室の間のラウンジはどこか金沢21世紀美術館のエントランスを彷彿とさせる.

展示も近代〜現代の彫刻・絵画作品が共存し, 権威的な感じがあまりしない.

 

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そんな中にさりげなく並ぶ, ゴッホの名画たち.

<夜のカフェテラス>

<糸杉と星の見える道>

 

 

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 本館のそれと呼応するように, 本館の間をつなぐ通路棟も木立の中を散策するような, あるいは公園の中の東屋のような休憩空間が設けられている.

効果を発揮する, シンプルなガラスファサードに対する納まり.

 

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そしてやはりどこかミース的なものを感じる.

設計はWim Quistというオランダの建築家だそうだ.

 

→(3)

311 Kroller Muller Museum 散策型美術館 (1)

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オランダ郊外にあるKroller Muller Museum.

 

ゴッホコレクションで有名という.

以前ドイツで訪れたInsel Hombroich Museumに似ていそうだという予感があった.散策する美術館.

美術館としてシンボルとなる建物がありその中で完結する美術館ではなく、自然の中にさりげなく、しかしルールを持って点在するフォリーを散策して楽しむ美術館.

以前ヨーロッパ滞在中に探訪した中でも強く印象に残った建築.

 

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Insel Hombroichを彷彿とさせる, 木立の中に建つ綺麗に積まれた淡い色の煉瓦は,

Insel Hombroichのココア色に対して白色に近く長形のもの.

 

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木立の奥のエントランス棟から入り,木立の周りを通る,本館へのアプローチ.

エントランス棟は先ほどの煉瓦積みとは打って変わって, ミース的な, ガラスファサードと柱による建物.

こちらの外観はガラスのみのシンプルなファサード. 木立が写り込みつつ, 背面のウォールウォッシャーも綺麗だが, 内装が若干残念.

天井の金属パネルの大きさ・割付・反射率が調整されれば, おそらくもう少し緊張感のあるアプローチ歩廊になったのではないかと思う.

 

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サッシと天井の納まり

外部から見たファサードがシンプルなガラス面に見えるような工夫.

 

→(2)